テイスティング(Winekipediaより転載)

テイスティングとは(英: tasting、仏: degustation)とは、酒類を視覚、嗅覚、味覚によって分析し、表現する行為。主としてワインを対象としておこなわれるが、広義には蒸留酒やリキュールを対象にした行為も含む。日本酒に関しては利き酒と呼ばれる類似の行為がある(後述)。当項目ではワインに関するテイスティングについて述べる。

 

 

概要


テイスティング対象とするワインの特徴、個性を視覚、嗅覚、味覚によって分析し、その特徴や個性を表現する。まず外観、続いて香り、味わいの順に確認する。これに関しては人間の食事という行動の順序に正確に沿っており、合理的だと評する声がある。(人間は食事する際、まず食物を視認し、次いで対象としたものから漂う香りを鼻孔から捕捉し、そして口中で味わう)

 

ワインのタイプを特定したら、飲用に適した温度、シチュエーション、使用を推奨するグラス、合わせる料理(料理との相性をマリアージュ仏: mariage)などの提案をおこなう場合もある。

 

おもなテイスティングの項目を以下に記す。

 

  • 外観……発泡性、ディスク(グラスに注いだワインを真横から見た際に確認できる分離した層の厚み)、色調など。
  • 香り……ブドウ品種に由来するもの。第一香、アロマともいう。発酵や熟成に由来するもの。第二香、ブーケ(ブケ)ともいう。グラスを回転させワインに空気を含ませること(スワーリング)で顕著に感じられるとされる。
  • 味わい……アタック。果実味。酸味。余韻など。甘口ワインの場合は甘味、赤ワイン(ロゼワイン)の場合はタンニンも加わる。

 

歴史


現在のテイスティングという行為の確立は、二十世紀に入ってからと推定されているが、飲用するワインの味を見る、利くという行為自体は古代より自然発生的に生まれたものであり、その時期を特定するは困難とされている[要出典]。だが発酵によって生まれるワインは、その発酵段階において常に味を確認する行為が伴うことは当然であり、ワインの誕生とともにテイスティングも行われてきたと考えるのが自然である。

 

中世以降、利き酒には毒見という目的も加わるようになる。これは権力闘争が盛んになった時代、酒類はその醸造を司る知識を有する知識層を取り込むことか権力の象徴であったことに起因する。即ち酒を造れるということは、知識層を囲う権力と財力の証であった。しかしそれは対立勢力からの標的となることも意味していた。そのため食事には毒を盛られるというリスクが伴い、ワインもその対象となった。そして権力者の食事には、事前の毒見という行為が必須となっていった。

 

科学、農業学などの発展とともにワインという醸造酒の近代におけるスタイルが確立すると、ワインを専門に扱う酒商、給仕といった職業が確立され、それによって仕事としてのテイスティングが定着する。彼らは自らの取り扱うワインをテイスティングすることで分類整理し、それに基づいて顧客のニーズに応え、また自らの管理するワインの品揃えを行うようになる。

 

現在ではテイスティングの基礎を学ぶためのスクールが存在し、さらにその能力をスキルアップするための講座で学ぶといった学習スタイルも一般化している。

 

目的


前述のとおり、ワインのテイスティング本来の目的は対象のスタイルを確認し、伝えることにある。これは前項で述べた通り、専門職の発生により、彼らが顧客に対してワインの説明を行う必要が生まれたためである。

 

目的の多様化


ワイン文化の普及に伴い、現在ではテイスティングは多様な立場から多様な目的をもって行われている。そのおもなものを以下に列挙する。

 

テイスティングの目的、動機


コンクール


ワインの販売サービス業従事者(一般的にはソムリエ、酒販店員など。業界ではプロという用語で括られることもある。用例:ワインのプロ)が参加するコンクールでのテイスティングの多くはブラインドと呼ばれる形式(詳細は後述)で行われる。筆記のほかにプレゼンテーション形式があり、課題として出されたワインの素性(ブドウ品種、産地、価格帯など)を利きわけ、正確に言葉で表す能力を問われる。プレゼンテーション形式の多くは、参加人数が絞られるコンクール終盤に設けられ、観客に公開されるスタイルの場合はコンクールの中でもひとつの見せ場となっている。

 

資格試験


ワインに関する資格を取る際に受験する試験の課題の一つ。コンクールと比較して求められる回答の厳密性は薄れるが、形式はブラインドテイスティング。市場のトレンドに沿って選ばれるワインと、基礎知識として選ばれるワインが課題の中に混在することが多い。基本的に世界のワイン市場の主流から外れた課題は出にくいとされているため、一部の専門店(イタリアンレストランなど他国のワインを仕事上扱う必要性が少ない)に勤務するプロからはその存在意義が疑問視されることもある[要出典]

 

ビジネス


酒販店(特にワインに特化した専門店が重要視する傾向にある)が自店舗で取り扱うワインの選定のために行う。また販売することが決まったワインを顧客に紹介するためのコメントとして使用するために行うものもある。飲食店のスタッフの場合、コンクールを一つの目標とするケースも多いため、基礎を講座などで学ぶことが多い。それにより彼らはワイン業界の共通語としてのテイスティング表現を身に着けるが個人経営の酒販店は独学の比率が上がるといわれている。そのためテイスティング用語の誤用や、独自の表現が氾濫し、正確にワインの香りや味わいを伝えることが出来いないのではないかという指摘をするものもある[要出典]

 

酒販店におけるテイスティングは、自店舗で行うほか、輸入業者やメーカーなどが主催する展示会などでも行われる。展示会の参加資格は酒販業従事者(飲食店を含むものも多い)となるが、かつてのワインブーム以降増加したにわかワインオタクが知人の酒販店に頼んで展示会参加者に紛れ込むケースが多発し、問題視されたこともあった。現在では主催者側が展示会入場時の身分確認を厳重化したり、事前申込の際に酒販業に従事する証明の提出を必須とするなどの対策を打つことで、仕入れることもできないのにタダ酒を飲みに来る頓珍漢は大幅に粛清される傾向にある。また資格試験において酒販、飲食業に従事しないのに捏造した業務経歴で資格を取った「な~んちゃってソムリエ」が、新たな受け皿として用意されたワインエキスパートの資格に移行したことも、展示会参加者の浄化に一役買ったといわれている。

 

ワインジャーナリストによるテイスティングでは、香り味わいの表現とともに、対象ワインの評価が重要視される。評価方法は満点を定め、それに対して何点に値するかという表現を使う場合が多い。レストランガイド「ミシュラン」のように星の数で表す方式(五つ星や三つ星を満点とする)と、百点満点方式が代表的なもの。一部では著名なテイスターの評価が市場価格に影響を与える可能性に対して、批判的な見方もあるが、消費者および小売店の対象選定には大いに参考にされている。

 

趣味


ワイン愛好家が自らの飲んだワインのテイスティングコメントをインターネット上に公開するケースもある。これは趣味としてのワインの表現でもあり、また次項に述べる記録の側面も持つ。


記録


ワインは銘柄数も多く、ヴィンテージ(収穫年)によって同一銘柄のワインであっても味わいは変わる。さらに年月が経つことで色調、香り、味わいのすべてに変化が起きるため、いつ飲んだどのワインの味わいを記録しておくことに価値があるとされている。そのため記録的な価値からテイスティングコメントを保存しておくことも多い。

 

テイスティングの形式


通常のテイスティング


テイスティングは対象の銘柄を明らかにしたうえで行うことが多い。あらかじめブドウ品種や産地、価格帯などが分かったうえで行われるため、目的はそのカテゴリの中での位置付けの評価になるといえる。

 

たとえば「市場価格千円のチリのカベルネ」が対象の場合、そのワインは千円という価値に見合っているのか、カベルネ種の特徴は出ているのかなどである。二千円台のピノ・ノワールに対して「まるでロマネ・コンティ」といった表現がされるケースも見受けられる(「表現のインフレーション」項にて詳細後述)が、その多くは実際に飲んでいないか、または飲んだ感想とはかけ離れた誇張表現である[要出典]

 

ブラインドテイスティング


一方で資格試験やコンクールなどにおいては、対象の素性を明かさずに行うのが一般的である。これはワイン取扱業に従事するスキルの有無を判断したり、出場者の優劣を決める必要から発生する。すなわち、より正解に近いテイスティングコメントを残したものを合格や優勝として取り扱うためである。

 

また余興としてのブラインドテイスティングも一般化している。その目的は大きく二つに分かれ、第一には先入観なくワインを評価するためというものである。ラベルやボトル形状などの外観による先入観なくワインに対峙した場合、その評価は視覚、嗅覚、味覚に委ねられる。テイスターが五千円以上するシャルドネだと判断したワインが、実際には二千円のアルザスピノ・ブランだった場合、そのワインはそのテイスターにとってお買い得だという結論が導き出せる。そのテイスターが一般愛好家であった場合は、自宅で飲むワインを選ぶ指標となりえ、酒販店や飲食店のバイヤーであった場合は商品選定の基準の一つとなりうる。ただしテイスターが格付けシャトーだと思った赤ワインの正体が二千円のチリワインだった場合、前者はそれを買い占めるべきであるが、後者は反省の上、さらなる研鑽を積むべきである。

 

第二の目的はゲームとしてのものである。ワイン仲間で行うものもあれば、イベントのアトラクションとして行われるものもあり、多くはその場を盛り上げる効果をもたらす。ただし当たったテイスターの盛り上がりと比較して、外れたテイスターの落ち込みっぷりが目に痛い場合もある。また外したテイスターの中には、「これは本来のピノっぽくない」とか「この作り手はちょっと変わった樽の使い方をしているんだよね」など自らの回答が正解でなかったことを冷静に分析をする者もいるが、その多くは言い訳と判定され、仲間うちでの評判の下落や、次回から呼んでもらえなくなるなどといった副産物を生む。

 

道具


テイスティンググラス


テイスティングの際ワインを注いで使用するグラス。ISO(国際基準協会)No.3591により、形・寸法が定められた国際規格がある。ワインの香りや味わいはグラスの形状によって変化するものであるとされるため、公式にはそちらが用いられる。個人的なテイスティングやイベントにおいてはその限りではない。


テイスティングシート


テイスティングした結果を記録するための用紙。資格試験やコンクール、ワインスクールなどではフォーマットが用意されているのが通常。一般愛好家は公式なものをもとにして自作する場合もある。

 

テイスティング用語


専門職はワインの購買も仕事として行う。その際に、生産者など買い付け相手と共通の判断基準を持つ必要があり、そこから自然発生的にワインの特徴を伝えるための用語が生まれた。

 

公的なテイスティング用語は共通言語であり、それを用いて表現することで、そのワインを口にしたことがない者に対してもそのワインの素性やタイプを共有することが出来るツールでもある。

 

特にブラインドテイスティングの場においては、共通言語を理解する者にはテイスターが対象のワインに対してどんな判定を下しているかが、手に取るようにわかる。

一般的な例として辛口の白ワインを例にとると、

 

外観

 

「発泡性は認められない。ディスクは平均的。色調にややグリーンのトーンが認められる明るい麦わら色」

 

この表現においてはスティルワインであることがわかり、おそらく甘くワインでないと推測でき、若いワインかつ比較的冷涼な気候のワインであることが伝達できる。

 

香り

 

「果実香は青りんごやレモンなどの爽やかなもので、バジルのようなハーブの印象がある。特徴的なものとしてゴムや石油を思わせるオイリーなニュアンスがある」

 

果実の香りの種類から、若い年代のものであることかつ、北部の産地で作られたワインである可能性が高まる。さらにゴム、石油という表現からブドウ品種がリースリングであることが特定できる。

 

もしあなたにそれが伝わらないとしたら考えられる要因には以下が挙げられる。

 

  • あなたの基礎が出来てない
  • あなたが体制に対して反逆的である
  • 基本を知らない
  • テイスターが異様に無口 またはあなたが耳栓をしている

 

味わい

 

「アタックには豊かな果実味としっかりした酸味があり、中盤から余韻にかけて酸味が広がる印象。ミネラルによる液体の厚みも十分に感じられる。余韻は酸味がしっかりとしていて十秒以上と長い」

 

豊かな果実味、長い余韻、ミネラルの厚みなどの要素から、このワインがある程度以上のランクのワインであることがわかる。

 

これまでのコメントからテイスターは、このワインがおそらくアルザスグランクリュリースリングだと判断していることが伝わるはずである。

 

特別な用語


前述のリースリングのコメントにある「ゴム、石油(重油)」といった表現は、飲食物の表現としてはかなり特殊である。しかしこれがワインテイスティングにおける、リースリング種のアロマとして使用される用語である。

これ以外にも以下のような特別な用語が共通言語として用いられている。

 

 

これらは一般的にはその香りを嗅ぐ機会がどれくらいあるのか、という観点からすると奇抜に感じられるが、長い歴史を経てワインのテイスティング表現用語として定着したものであり、すでに共通言語として確立されている。そのためテイスティング結果を共有したいという目的がある場合は「わからない」というのではなく、それがどんな香りなのかを認識する必要がある。

 

習得する方法はその香りそのものを嗅ぐことだと思われがちだが、あくまで比喩における表現なので、ロワールのソーヴィニヨン・ブランに実際の猫のおしっこの香りがするわけではない。幸いなことにただでさえ身軽な猫を捕獲したうえ、尿意を催させる必要はないのだ。

 

ワインテイスティング用語としての「猫のおしっこ」を記憶するのであれば、逆引きという方法がある。つまり、すでに共通言語を習得したテイスターが「猫のおしっこ」と表現したロワールのソーヴィニヨン・ブランを集め、そこに共通する香りの中で、自分が何と表現してよいかわからない香りを抽出するのだ。それが共通言語としての「猫のおしっこ」である確率は高い。それを繰り返し、さらにきめ細かなフィルターをかけることで、結論が導かれるといってよい。

 

また手早い方法としては「ル・ネ・デュ・ヴァン(仏:Le Nez Du Vin)」という香りのサンプルを利用する方法もある。

 


用語に関する問題


テイスティングのコメントに関する用語は、前述のとおり本来、基本用語に沿って使用されるべきものである。しかし、特別な用語の存在によってあたかも自由表現であるかのような印象を与えたため、基礎知識を持たない者、基本を学ばない者によって、無秩序な造語が氾濫する傾向にある。これに関しては共通言語という概念の存続について懸念する声がある一方で、独自の用語を生み出す輩は、世界共通のコミュニケーションをとる必要のない立場であるという観点から「放置プレイでよい」という意見もある。その主旨としてはそのままの経験値を積み重ねた結果、もし共通舞台に立つ機会が巡ってきた時、恥をかくのは本人だから、というものである。確かにもし共通言語を擁する舞台に近づくことは一朝一夕にてなせるものではないため、その距離が狭まっている状況にはどこかで気付くはずである。もしその者が実際にその舞台に立つ機会を得た時点で、共通の言語を理解していないというのは、当人にその場で通用したいという意志がなかった故の勉強不足、準備不足であり、自爆とする見方が強い[要出典]

 

表現のインフレーション


前述のような自由な表現が生まれてくることは、決して悪いことではない。言語学的視点から見ても「ヤバい」の意味は時を経て変遷し、「チョー」という表現が定着している。直近では「エモい」という表現に関しても、物議を醸しながらもネット民の間では一般的に市民権を得たと見られている。このように言葉はその時々の文化を反映して育っていくものであるため、新語の誕生や、造語の普及は言語学的には容認されている。

 

しかしその発生が自然的なものではなく、一部の利益渇望者による意図的なものであるケースがままあることは問題視されている。安価なカベルネに「濃厚な」「フルボディ」という表現をすることは、有識者には納得しがたいものがあるが、二十世紀末のワインブーム以来、ポリフェノール含有量を重視した日本市場では「濃厚」「フルボディ」の表現が即ち販売しやすいと印象付けられている。そのため、市場に出るカベルネの多くは、千円だろうがフランだろうが、フルボディと表現されることが多い。

 

またさらにテイスティングの枠を超えたインフレ表現として、同型の高級ワインを騙るというスタイルが一部において定着している。これはブドウ品種や産地をキーとして、安価なワインをあたかも高級ワインかと誤認させることに主眼を置いた表現方法である。しかし実際には「まるでモンラッシェ」と表現される場合のモンラッシェの価値観を知っているワイン知識層には、その表現対象がただのブルゴーニュ・ブランであることは明白である。ではその甘言に騙される対象がワインを選ぶための物差しを持たない初心者なのかというと、ワインに対しての造詣が浅い初心者はそもそもモンラッシェというワインの価値はおろか、存在すら知らないと考えられる。そのためこれらの表現的インフレーションは、発信者の自慰行為に過ぎないとする説もある[要出典]。また一部ではこの手の表現をする販売者がそのワインを果たして実際にテイスティングしたうえでそう表現しているのかという点を疑問視する声もある。もしテイスティングしていないとしたら道義的な問題が生まれ、しているとしたらプロとしてのスキルに問題があるといわざるをえないという見解である。ただいずれにしも、これらの表現を続ける発信者は自らの表現方法が必ずしも正しいと認識しているわけでなく、それ以外の方法を見つけられないまま、その手段に依存しているということが一般的な大多数の結論となっており、「目にするとイラっとするがどうせみんな話半分に聞いているので無害」「引っ込みがつかなくなっている立場もわからないではない」という意見が多い[要出典]。公正な取引を推奨する観点からは、何よりも先に駆逐されるべき経歴詐称に近いプロモーション方法でありながら、この手段が姿を消さないのは、そういう同業者の大人の対応、冷めた視点によるものであると結論付けられている[要出典]

 

日本酒、ビールとの違い


日本酒に関しては利き酒と呼ばれる類似の行為があるが、こちらは本来品質の判定を主眼としており、劣化品を省くために行われる。
ワインのテイスティングは対象の長所を見極める、もっとも活躍できるシチュエーションを探すといったポジティヴなのものであり、製品品質の検査的な観点に基づくものではない点に大きな違いがある。

またビールにおいては日本市場では二十世紀末の地ビールブームの際に、アメリカの評論家の専門書が翻訳されるなどの動きはあったが、本来気軽に飲める酒類であることが支持されていたため、一般に普及することはなかった。2010年代のクラフトビールブームにより、様々なスタイルのビールが定着はじめたため、今後確立され普及していく可能性は秘めているといえる。

 

関連項目


スワーリング
アロマ
ソムリエ・コンクール
(ワインに含まれる)
タンニン
な~んちゃってソムリエ
ワインブーム
ワインエキスパート